最適杭径に関する研究 - 杭径は大きいほど損傷を受けにくい、は本当か?-

 杭基礎の杭径は大きい方が損傷を受けにくい、という考え方は、杭体に作用する外力を上部構造物からの慣性力を主として想定した際の解答としては相応しいでしょう。しかし、杭は地盤中にあるため、地震時には地盤変形による影響を受ける可能性があります。その影響は、軟弱地盤など変位量が無視できないものでは特に大きくなります。それでは、地盤変形のみを受ける杭があるとして、杭径の大きいものは小さいものに比べて損傷は受けにくくなるのでしょうか?著者はこれまでに、3次元弾性波動論に基づく理論解を誘導し、地盤変形を受ける杭の杭頭曲げひずみと杭径の関係について、様々な条件下で検討を進めてきました。その結果、地盤変形のみを受ける杭の曲げひずみは、杭径が小さくなるに従って減少する傾向にあり、ある杭径で極大値を取るような性質があることがわかりました。そのため、杭径を大きくすることで曲げひずみが減少する慣性力による特性とは、相反する様相を呈すことになります。その結果、慣性力と地盤変形を同時に受ける杭の曲げひずみを極小化するような、両者の影響を最も受けない杭径が存在する場合のあることが判明しました。これを本研究では”最適杭径”と定義しています。
 本研究は開始から5年の月日が流れましたが、本研究成果については比較的反響が大きく(賛否両論)、設計実務への対応として、地盤や杭体の非線形性への取り組み、あるいは群杭基礎への適用など、”至急検討するように”と様々なご要望を戴いています。現在、応答変位法に基づく近傍地盤の非線形性や、ひずみ振幅依存性などの複合する非線形条件下での特性についても、解析的あるいは実験的な検討を行っています。実務レベルでは、杭頭拘束条件、地盤条件、群杭効果、あるいは入力地震動による影響など、様々な条件があるために、そうした特定の条件下における本研究の適用については、まだまだ検討すべき項目は山積といった状況です。一つ一つそれらの特性について検討していく予定です。
以下、これまでの研究成果を一つの資料にまとめてみましたのでご覧下さい。
「地盤変形と慣性力の影響を同時に受ける杭基礎の損傷低減のための最適プロポーション選定法」 (pdf 1,760kB
慣性力(Inertial Interaction)と地盤変形(Kinematic Interaction)を同時に受ける杭の杭頭曲げひずみ(地盤の平均せん断ひずみで正規化)と杭径(基礎径長比a/H)の関係
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